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こんにちは、現役歯科医師兼臨床歯科ライターの管理人です。
みなさんは「歯周病」というものが実際には何なのか想像できますか?
歯槽膿漏(ノウロウ)という言葉もよく耳にしますが、いわゆる「歯周病」というのは正確には「歯周炎」といいます。つまり「歯周組織の炎症」ということです。
今回はこの歯周組織の炎症:歯周炎が重度に進行してしまった場合の実態と、それが巷でいわれる様々な治療法で本当に治るのか、に言及しようと思います。
健全な状態は
これから歯周病についてみていきますが、比較のためにまず正常な状態・健全な状態がどのようなものなのかを確認しておきましょう。
話を分かりやすくするために下の前歯に部位を限定します。
歯ぐきはきれいなピンク色で引き締まっており、健全な状態です。色とあわせて大事なのが歯ぐきの形。
歯と歯ぐきの境界線をなぞると、上のように尖った山なりになります。これが引き締まった健康な歯ぐきの特徴です。
そして、もっと大事なのはレントゲンです。歯は歯ぐきではなく、その下の骨の中に植わっています。
ここで注目したいのは歯槽骨の位置と歯の位置の位置関係です。
しっかりと歯の首の部分まで骨がつかんでいますね。これが健全な歯周組織の状態です。この「歯と歯槽骨の位置関係」はレントゲンをとらないと分からないということです。
歯周炎もどき①
健全な歯周組織の状態を踏まえて、下の写真をみてみてどうでしょうか?
歯ぐきが腫れあがっていて、いかにも歯周病という感じですよね?でも、これは歯周病ではありません。
歯周病ではない、というと語弊があって、広い意味では歯周病の1つの状態ではありますが、「歯周炎」という状態ではありません。それはなぜか、レントゲンをみてみましょう。
上に被さっている歯ぐきは腫れていても、下の歯槽骨は特に問題なく、しっかりと歯の首の部分まで骨で覆われていますね。
つまり、「歯周炎」とよばれる状態かどうかを決定的にきめるのは
歯を支える歯槽骨が吸収し(溶け)ているかどうか
です。
歯周炎もどき②
同じく、よく歯周病といわれる状態に以下のようなものがあります。
これは「歯肉退縮」とよばれる状態で歯ぐきが下がってしまい歯が長くなっていますね?これも”広い意味”では歯周病といえるかもしれませんが、「歯周炎」ではありません。
レントゲンを見てみると、やはり歯槽骨が歯の首の部分までしっかりとあります。つまり、上に被さっている歯ぐきが退縮してしまっただけで歯を本当に支えている骨には影響が及んでいないという事です。
上の写真も同じです。歯と歯の間の「ブラックトライアングル」とよばれる隙間を気にされて来院される方も多いですし、矯正治療の副作用としてもよく生じるのですが、これもブラックトライアングル単体で歯周病とはいいません。歯と歯の間にある歯ぐき(歯間乳頭といいます)が失われてしまっているだけで、歯槽骨が溶けてしまっているわけではないからです。
重度の歯周炎の実態
では、歯周炎とはどのような状態でしょうか?
部位は同じ下の前歯です。
どうでしょうか?そんなにひどい歯周病があるように見えますか?レントゲンを見てみましょう。
分かりますか?
これはかなり重度の歯周炎です。改めて歯と歯槽骨の位置関係をなぞってみます。
本来は歯の首の部分まであるべき骨が、根の先端方向に吸収し、本来は歯を支える骨が喪失してしまっています。これが歯周病の本態です。
この部分の歯と歯ぐきの溝の深さ(歯周ポケット)を測ってみましょう。
これは 8ミリ の深さを示しています。本来下の前歯であれば、2~3ミリ である歯周ポケットが、著しく深くなっているということです。
実際に上にかぶさっている歯ぐきをめくってみましょう。
!!!
2番目と3番目の歯の間の骨が、レントゲンで見た通りに無くなってしまっています。
他の部分に比べお椀のように骨がえぐれてしまっているのが分かりますね。
ちなみにこの写真は歯ぐきをめくった後に中の汚れを徹底的に掃除した後の写真です。
掃除をする前にはなにが詰まっていたかというと、
歯石
と
肉芽
です。
歯石といっても、プラークが石灰化したような生ぬるいものではなく、血液由来の強固なもので、歯の表面に強靭に付着しています。
肉芽というのは、ご自身の免疫細胞と細菌の戦いの残骸のようなもの。
これらが複合して骨が溶けてなくなったスペースに詰まっている、これが重度歯周炎の実態です。
歯周病が口臭などの原因になるのもうなずけますね。
重度歯周炎は治るのか
では、このような状態は治るのでしょうか?
結論からいうと
治りません
ここでいう治る とは、つまり
喪失した骨が元のレベルまで回復する という意味ですが、
重度歯周炎で失われた骨を完全に元に戻すことはほぼ不可能です。
歯周病治療にも様々なものがありますが、いずれも
歯周炎の進行を停止/一時消退させ、現状より悪化するのを防ぐ
ことが上限です。
唯一、再生治療は失われた骨の回復が見込める治療法ですが、適応が限られる上に、100%の回復はあり得ません。
いかに予防が大切か、毎日の歯ブラシが大事か、それは一度重度に進行してしまった歯周炎は取り返しがつかないからです。
まとめ
下の前歯に部位を絞り、様々な状態を見てみました。
歯周炎は本当に自覚症状がないまま進行します。
そして 歯が揺れる・痛い・膿が出る などの症状が出た頃にはほとんど手の施しようがない状態になっているということも多いです。
歯周病の治療には様々な方法があふれていますが、
・即日で歯周病が治ります
・無痛で歯周病が治るレーザー治療
などといった触れ込みの宣伝が大嘘であることがよくわかります。病態にもよりますが、長い時間をかけてそのような状態になったものが即日で治るわけがないですし、レーザーをちょろちょろ当てたくらいで汚れはとりきれません。
ご自身でお口を清掃する習慣と技術を身に着けることが大前提ですが、初期的な治療である程度炎症をコントロールした後は手術をして、患部を明視化し、物理的に汚れを除去しなければ根本的には改善しないとうことです。
歯周炎は、状態が悪化するほどに処置が難しくなります。
気になっている方は、一度しっかり手術までできる医院で相談をされてみてはいかがでしょうか?😊