【根管治療 ってなに?】根っこの治療とは、なにをしているのか


こんにちは、現役歯科医師兼臨床歯科ライターの管理人です。

今回は「根管治療」について触れてみたいと思います。

根管治療 と聞いて、どんな治療のことが想像できますか?根管治療は歯の内部にある歯髄という空間にアプローチする治療です。

実は、あらゆる歯科治療の中でも最も手技的に難しいもののひとつが根管治療です。しかし、日本の根管治療は非常に“いい加減で雑な”治療が今も行われているのが実情です。それがなぜなのか、どうすればよいのか、解説したいと思います。

根管治療とは

まず根管治療とは、なにをするのかを簡単に紹介しましょう。

上の写真は右上の3~6番目の4本の歯です。

これを簡単に図にすると、

このようになります。

お口の中を覗いて見える歯は、実は全体の半分程度。

このように、歯には根(歯根といいます)があり、この歯根は見えている部分と同じかもっと長く顎の骨の中に埋まっているのです。その根の中には「歯髄」(根管)よばれる血液と神経の入る空間があります。根管治療とはこの歯髄のある部分にまでアプローチしていく治療のことです。

上の写真のレントゲンを見てみましょう。

赤い〇で囲われている黒い部分は虫歯です。前から5番目の歯に歯髄(根管)にまで達する大きな虫歯がある状態です。

歯医者でよくいう

「虫歯が神経までいっちゃってるから神経をとらないといけないですね」

という状態です。

実際は、虫歯の感染が神経まで達したとしても必ずしも全ての神経をとらなければならないわけではありません。この事に関してはまた別の記事で書きましょう。

こちらのレントゲンは上の歯の治療後の状態です。神経があった空間「歯髄」(根管)が白く、薬で詰められています。

このように

「歯髄の中を清掃し、細菌の数を減らし、痛みを取り除いたり、更なる感染を予防する」

のが根管治療ということです。

根管治療は難しい・・・

このように見ると、

なんだ、神経をとって薬で詰めるだけじゃないか

と思われるかもしれません。

しかし、それは大きな誤解です。

以下の事を考えてみてください。

  • 歯はそもそもすごく小さい
  • しかもその歯が口の中という作業しづらい場所にある
  • ましてや根管ともなればその小さい歯のなかの更に細い管

例えば、前から4,5番目の歯の小臼歯という歯が、歯の中では中間的な大きさですが、それでもだいたい小指の爪くらいの大きさしかありません。

この歯を作業台の上に置いて治療できるならいいでしょう。でも違います。

唾液も出てくる、患者さんも動く、痛みがあるかもしれない、そもそもすごく狭い、そんな口の中という環境で作業しなければならないわけです。

 

しかも根管というのはこのようにめちゃくちゃ細い管です。先端付近にもなればその太さは0コンマ数ミリという世界。

身近なもので例えるなら、シャーペンの芯が0.5mmとかですね?歯によっては閉塞といって、この管が土砂崩れしたトンネルのように詰まってしまっていることもあります。

更にさらに!根管というのは生体の構造物です。レントゲンでは単純なトンネルのように見てても、実際は枝分かれして、その先でまた枝分かれして、とまるで複雑な木の枝のような構造をしています

想像してみてください。

作業しづらい口の中の、小さな歯の中にある更に小さな小さな管の中で、まるで毛細血管のように枝分けれしているその中で細菌が繁殖してしまっている。

(虫歯が神経までいってしまっている、とは言い方を変えれば↑こういうことです)

このように繁殖した細菌を駆逐し、中をきれいに清掃し、薬で詰める。

これが根管治療という作業がやろうとしていることです。

どうでしょうか?

なんとなく根管治療がいかに難しい作業か、伝わったかと思います。

奥歯ともなれば、さらに口の奥になり作業が困難になる上に、根管の数も増えます。なので、一般的には 前歯 < 小臼歯 < 奥歯 と治療の難易度も上がります。

根管治療を成功させるためには

根管治療がいかに難しい作業なのか、というのをかいつまんで説明しました。

では、このように「困難な根管治療」をしっかりと行うためにはどうすればよいでしょうか?それには絶対的に必要な条件がいくつかあります。

それは

  • ラバーダムを張る事
  • 顕微鏡をつかうこと
  • 時間をかけること

です。ひとつひとつみてみましょう。

ラバーダムとは

まず根管治療を成功させるために最も大切なのは

「無菌的な環境で処置を行うこと」

これに尽きます。

唾液というのは細菌だらけです。普通に口をあけただけの状態で根管治療を行うというのは、雑菌だらけの環境で開腹手術をするようなものです。

左上の4番目の歯にラバーダムをかけた状態

上の写真のように、処置する歯だけを口の中から隔絶させる処置がラバーダムというものです。これにより、唾液が根管の中に入るのを防ぐだけではなく、洗浄につかう強力な薬液が口の中に漏れるのを防ぐこともできます。

これが根管治療を行う上でまず絶対的に必要な条件といえます。

顕微鏡をつかうこと

先述した通り、根管治療は非常に細かい作業です。

【精度の高い治療って?】で紹介したような拡大鏡を使うことで歯科治療の精度は格段にあがりますが、根管治療を行うためにはこのような双眼ルーペタイプの拡大鏡でも不十分です。上の写真のような大型の歯科用マイクロスコープをつかうことで、ようやく根管の中をしっかりと確認しながら処置をすることができるのです。

顕微鏡写真の1例

上の写真は治療中の写真の1例ですが、歯根の先端、根管の一番深い部分にある根尖孔という部分まで確認することが可能です。これは、双眼ルーペなどの拡大鏡では不可能な見え方で、肉眼など論外というわけです。ここまで拡大しなければ、しっかりした処置はすることができません。

根管治療は時間がかかる

ラバーダムを張り、顕微鏡をつかって治療を行うこと が、根管治療を成功させるために不可欠な事だとわかりました。

では、このような作業をするのにどれくらいの時間がかかるでしょうか?

それは、

前歯なのか、奥歯なのか

手つかずの歯なのか、再治療なのか

によって大きく異なりますが、それでも一回の治療時間に60~90分、長い時は120分くらいの時間が必要になることもあります。

奥歯の再治療などになれば、そのような診療時間での来院が3~4回、”根管治療だけ”に必要になってくることもあるのです。

くどいようですが、根管治療は非常に細かく手技的にも難しい作業です。適当にやれば早く終わるかもしれませんが、ラバーダムを張った環境下で、マイクロスコープをつかってしっかりとした処置をするのであれば、時間がかかるのは当然だと、想像できるかと思います。

保険治療は「最低限」以下

さて、ここまでみてきて、根管治療がいかに煩雑な作業か、そしてその治療を成功させるためにいかに道具や環境・かける時間が大切か がお分かりいただけたかと思います。

では 日本の保険治療でこのような治療が可能かというと、

不可能です

結論から言えば日本の保険治療は

・ラバーダムもなし

・顕微鏡もなし

・時間は短時間

が普通です。勿論、なるべく良い治療をしようとこころがけている歯科医師は保険でもラバーダムをつかったり、と努力をしているところもあるかとは思いますが、それでも十分な時間をかけたり、器材に投資をすることは難しいでしょう。

なぜなら、

診療報酬が異常に少ないから です。

保険治療というのは、国が定めた「診療報酬」というものが決まっていて、患者さんは保険証を提示することでその内の何割かを窓口で負担する というのが日本の健康保険のシステムです。

例えば奥歯の根管治療を保険で行った場合、再診料など含めても歯科医師が国から受け取れる報酬は合計して8,000円~10,000円程度です。ラバーダムなどは使っても使わなくても診療報酬に変わりはありません。顕微鏡は安いタイプのものでも150万程度はします。

こんなの、保険で真面目に治療をしていたら、その歯科医院は間違いなく潰れます。

これが日本の保険歯科医療の現実です。

なるべく短時間で沢山の治療を回転させ、保険点数をかせぐ。

全くもって医療のクオリティとはかけ離れた価値観で運営しているのです。

これが「日本の保険の根管治療は最低限以下のレベル」である理由です。

自費の根管治療が重要なわけ

ここまで論をすすめて、ようやく根管治療を自由診療として行うことの意義が伝わるかと思います。

いいお店でフレンチのフルコースを食べるのであれば、お金もかかりますよね?

「医療」というものをそれと同じくくりで考えるのは、あまりにも資本主義に傾倒しているように思われるかもしれませんが、

”虫歯が神経に到達するまで深くなってしまった”

”雑な治療のせいでまた膿んできてしまった”

のであれば、それを「ちゃんと」治すために費用がかかるのは当然というわけです。

勿論、顕微鏡やラバーダムを用い、しっかりと訓練された歯科医師の行う根管治療に対して、その労力に見合った診療報酬が設定され、保険治療として行える というのが患者さんにとっても歯科医師にとってもベストです。

しかし、国の医療費というものは限られています。今後ますます介護や老人医療に医療費が割かれていくであろう時世の中、歯科治療の診療報酬が大幅に改善される見込みはほとんどありません。

というわけで、

・ラバーダムを行って

・顕微鏡をつかい

・時間をかけて

処置をするのであれば、その多大な労力に対して自費診療を設定するという結論に帰着するわけです。

金額設定は自費根管治療を提案する歯科医院ごとに様々ですが、相場としては、手つかずの前歯の治療で5万~7万円 奥歯の再治療で10万~15万円くらいが妥当といえるでしょう。

まとめ

根管治療というのは、見た目にも見えない部分なのにも関わらず治療には時間がかかり、あまりモチベーションの上がりやすい治療ではありません。

ただ、根管の中に細菌が残ったまま治療をすすめると、後々問題がおきてくることがあります。

治療されているにも関わらず病気ができている。

既に治療されているにも関わらず、レントゲンを撮ると根の先端に病気ができている ということが後を絶たないのは、現在進行形で保険の「いい加減で雑な」根管治療が行われているからです。

今回は、根管治療がいかに難しく労力を要する治療なのか、そしてそのような治療をしっかりと行うためには、とても保険では治療することができないことがお分かりいただけたかと思います。

費用はかかってしまうかもしれませんが、一生つかっていきたいご自身の歯です。根管治療のやり直しなどでお困りの方は、是非自費の根管治療を行っている歯科医院に相談してみてはいかがでしょうか?

1件のコメント

【精度の高い治療】ってなに?精度が高い治療は良い治療である。 へ返信する コメントをキャンセル

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